数学科学習指導案


                           教 諭 上原 永護
                            於  視聴覚室

授 業 の 視 点

 コンピュータによるシミュレーションを用いることにより、その事象に興味や関心を抱かせたり、数理的に考察しようとする意欲を持たせたり、数理的な特徴に気づかせることができ、学習活動を活性化するのに有効であったか。
1.題材名 「1次関数のまとめ」

2.考察
 (1)教材感
〇 現在、中学校で学ぶ生徒たちは、21世紀での活躍が期待されている。その活躍する時期までに、かなり大きな技術革新や社会変革に直面することと思われる。こういう変化の激しい世界に生きていくには、固定した知識をもってしては間に合わない。必要なのは、新たな状況に応じて、新たに思考し、行動する生きた学力である。
 新たな実際場面においては、自然現象や社会現象などの具体的な事象を扱うことが多い。そして、その具体的な事象を数理的にとらえたり、新しい概念をつくったりするときに、関数的な見方や考え方を必要とする場面が多く、関数は極めて重要な役割をしていることからも、本題材は、これからの時代に生きる生徒たちには欠かせないものであると考える。
 本題材では、具体的な事象の中から1次関数を見出し、1次関数を利用して問題を解決したり、式・表・グラフなどに表すことにより、その具体的な事象の変化の様子をより深くとらえることを学習する。
 小学校でもある程度、表やグラフについて学習してきており、中学校では式の有用性を中心に、第1学年では、比例・反比例等の基本的な関数の学習を行い、第2学年ではそれをさらに発展させ、基本的な関数関係の代表的なものとして1次関数を取り上げる。また、2元1次方程式ax+by+c=0を、変数xが1つ決まれば、yの値がただ1つ決まることから、2つの変数xとyの関数関係を表す式とみることが取り上げられる。このような見方を通して、方程式と関数が統合的に理解され、さらに連立方程式や二次関数などの理解へと発展していくのである。
 このように、本題材は、基本的な関数の代表である1次関数の基礎基本の確認とその利用場面を扱うため、関数指導の中でも重要な位置にあるといえる。
〇 関数の指導においては、形式的な指導に流されることなく、具体的な事象を通して関数の考察を行うことが大切である。そして、本題材では1次関数の利用場面を考察するため、その事象を表現する文章題に取り組むことが必要とされる。
 文章題での指導のねらいは、子供たちが現在および将来当面するであろう現実的な問題場面の数的処理能力を伸ばし、数理的構造をより高度のものに構築することにある。文章題は、重要で、難しい領域ではあるが、それが解けたときの喜びは大きなものがあり、学習意欲を高めるのに効果的である。そこで、シミュレーションによる意欲づけと数理的事象への理解の支援により、学習活動を活性化することができると考える。
 また、その問題解決において、次の3つの事柄について学習することにより、関数の考えを一層伸ばすことができると考える。
 ・依存関係に着目すること
 ・関数関係を見つけたり、用いたりすること
 ・関数関係を表現すること
 このような学習を通して、変数間の対応や変化の仕方を知ることによって、物事の理解が深められたり、問題解決が容易になったりする。このことがわかると関数の考えのよさがわかり、それを用いる意義も出てくる。
 このように本題材の学習を通して、生徒が数理的に考察することのよさや楽しさが分かり、自ら進んで、数学的な見方や考え方ができるようになり、それらを進んで活用する態度を育てることができ、学習活動が活性化できると考える。


 (2)教材の系統

1次方程式(中1)

   1 次 関 数

2乗に比例する関数(中3)

1.1  次  関  数
量の変化と比例(中1)
2.方程式とグラフ
対応と関数(中3)

3.1次関数の利用
連立方程式(中2)


 (3)生徒の実態
 中学校数学科の指導上の大きな課題のひとつが、生徒一人一人の学力差が大きいことにある。
 また、生徒たちの学習態度の調査の結果をみると、「数学とは難しいものであり、出来ないからやりたくないし、やっても自分にはできない。」と考えている生徒が下位群を中心に多くみられる。つまり、すでに学習への意欲を失い始めており、それが悪循環し、学力差を拡大していることが分かる。
 特に、文章題においてはその傾向が顕著である。
 授業においても、単元の応用(文章題)の学習に入ると、生徒は理解しようとはするが、意欲が低下し、身につけようという態度があまり見られなくなりがちである。
 教研式学力検査によると関数の領域において全国平均正答率が41%であるのに対して本学級の正答率は49%である。「グラフの読み取り」、「表・量の変化の読み」、「比例の式と比例定数」では比較的正答率が高かったが、「関係の式表示」では本学級の正答率は15%であり、全国平均正答率は8%を上回っているが、正答率が最も低い。
 7月に実施した実態調査によると、比例の式・グラフはできても、総合問題(本時の課題T)になると十分にできない生徒が多い。また、1次関数のグラフの簡単なものはできるが、係数・切片が分数になると、できる生徒は数名である。

(4)支援方針及び留意事項
 文章題は、生徒たちにとってもっとも難しい学習課題である。文章題を解くには、問題場面の意味把握→数量の構造的把握→立式→演算→名数つきの答→検算、という流れをとる。しかし、多くの生徒がその学習に意欲的に取り組めないのは、その学習の主体者となり、その学習の流れに入ることが出来ないからである。そこで、問題を自分自身の問題としてつかみ、自分の力で解決したいという気持ちを起こさせることが必要である。
 そのためには、個に応じた適度な抵抗のある問題を用意し、自分の力で解決できそうだという見通しを与えることが必要である。また、その事象を数学的に考察するための支援を行うことににより、生徒全員に成就感を味わわせることができ、学習活動に生徒が主体的・意欲的に取り組むことができ、学習活動が活性化することができると考えた。
 また、授業では、多くの生徒が「わかった」というところまでたどり着くことができる。しかし、自分一人の力で『できる』ところまでたどりついてこそ、『本当にわかった』ということができ、学んだものが「身についた」といえるのである。また、『身について』こそ学習に意味があり、生徒の学習への意欲も大きく飛躍するのである。
 したがって、生徒の自ら学ぶ意欲を高めるのには、生徒一人一人がこのように「身についた」という経験を味わうことができるような指導が必要であるということができる。
 そこで、次のような点に留意して指導を行う。
・ 論理的な思考力や直観力を培うために、生徒一人一人が自ら考える場を設 け、問題解決的な学習や具体的な操作を取り入れた学習を重視するなど、生徒を主体とした指導の充実に努める。
・ 中位・下位群の生徒にも『できる喜び』を味わわせることができてこそ、学習集団の意欲が高まったということができると考え、生徒一人一人が学習に参加し、『できる喜び』を味わうことのできるができるように、一斉授業の中で段階的ヒントを与え、個に応じた指導を工夫し、実践する。また、それと同時にそのヒント、ひとつの解法だけでなく多様な思考を保証する体制をとる。
・ ある文章題が与えられ、容易に課題の答えがわからない場合、これと類似 の既習の問題を思い出し、これと比べてどのようにしたらよいかを考えることが予想される。そこで、まず、下位群の生徒には、その手だてとなる解法の型を記憶させ、数量の依存関係をつかんだり、立式する援助などを行う。

(5)研究テーマとのかかわり

 その文章題の提示する問題場面を十分に理解するためには、説明図だけでなく実験的な手法や操作活動を取り入れて問題場面を構造的・関係的に把握することが大切である。
 また、数学では、抽象的な課題についても考察することが多いが、生徒が興味や関心を抱くような数学的な性質をもった課題を設定することが重要である。
 そこで、事象や課題のもつ数学的な性質に気づかせたり、それを深く理解し、考察するための手立てが必要となる。
 そこで、コンピュータによるシミュレーションを効果的に用いることにより、事象や課題の持つ数学的な性質に興味・関心を抱かせるとともに、問題解決への見通しに気づかせたり、生徒一人一人が思考実験することができ、問題解決への意欲と見通しを持つことにより、学習活動を活性化できると考える。

3.本題材の目標
 1次関数の特徴を理解させるとともに、変数に着目する意識を高めながら、式や表を有機的に用いて、1次関数の理解をより深め、利用する力を身につけさせる。


4.指導計画
単 元 名
『1次関数』(全14時間)
  題    材   名
   小    題    材    名
C1 次 関 数 [9時間]





@1次関数        (1時間)
A1次関数の値の変化   (1時間)
B1次関数のグラフ    (2時間)
C1次関数のグラフのかき方(1時間)
D1次関数を表す式の求め方(2時間)
E1次関数の利用     (2時間)
D方程式とグラフ [3時間]

@2元1次方程式のグラフ (2時間)
A連立方程式とグラフ   (1時間)
E1次関数のまとめ[2時間]


@1次関数の式・表・グラフ
 の特徴と表し方     (1時間)
A1次関数の活用     (1時間)[本時]


5.本時の学習
 (1)ねらい
 変数に着目する意識を高めながら、式や表を有機的に用いて、1次関数の理解をより深め、利用する力を身につけさせる。

 (2)準備・資料
  プリント、説明図、コンピュータ(シミュレーション用)

 (3)展開
 予想される学習活動
時間
 指導上の留意点
評価
1.課題Tの1次関数の問題に
 ついて考える。





10分




・単に立式を行うだけでなく
Aに比例する部分と切片の図
形的意味に気づかせる。
・穴埋めの解答例を黒板に書
き、下位の生徒に援助を与え
る。

・比例定数が
正の数の1次
関数であるこ
とに気づき、
表現できたか





T右の図において、辺CD上を点PがCを出発
してDまで秒速2cmで進むものとする。点P
がCを出発してx秒後の四角形ABCPの面積
をycmとするとき、yをxの式で表しなさい


2.課題Tを参考に、課題U・
 Vの1次関数の問題について
 考える。




10分




・穴埋めのプリントを配布し
下位の生徒に援助を与える。
・立式だけでなく、変域・グ
ラフについても考えさせ、理
解を深めさせる。

・1次関数に
表すことがで
き、変化の様
子の理解を深
められたか。








U 課題Tを縦8cm、横10cm、点Pの移動速度2cm/秒とする。
 @yをxの式で表しなさい。
 Axの変域とyの変域とを示しなさい。
 Bxとyとの関係をグラフで表しなさい。
V 課題Tを縦9cm、横12cm、点Pの移動速度3cm/秒とする。
 @yをxの式で表しなさい。
 Axの変域とyの変域とを示しなさい。
 Bxとyとの関係をグラフで表しなさい。









3.課題Wの1次関数(a<0)
 について考える。






10分





・穴埋めの解答例を黒板に書
き、下位生徒に援助を与える
・シミュレーションにより、
変化の様子が変わることに気
づかせる。


・傾きが負の
数の1次関数
を式・変域・
グラフに表せ
たか。








W右の図において、辺AD上を点PがDを出発
してAまで秒速2cmで進むものとする。点P
がDを出発してx秒後の四角形ABCPの面積
をycmとするとき、次の@〜Bに答えなさい。
 @yをxの式で表しなさい。
 Axの変域とyの変域とを示しなさい。
 Bxとyとの関係をグラフで表しなさい。


4.課題Wを参考に、課題Xの
 1次関数の問題について考え
 る。




5分




・穴埋めのプリントを配布し
下位の生徒に援助を与える。
・立式だけでなく、変域・グ
ラフについても考えさせ、理
解を深めさせる。

・1次関数に
表すことがで
き、変化の様
子の理解を深
められたか。




X 課題Wを縦8cm、横10cm、点Pの移動速度2cm/秒とする。
 @yをxの式で表しなさい。
 Axの変域とyの変域とを示しなさい。
 Bxとyとの関係をグラフで表しなさい。





5.課題T〜Xの発展問題とし
 て、点Pの移動速度を毎秒2
 cmとし、三角形ABPの面
 積の問題に取り組む。









10分










・理解が遅れがちな生徒には
ヒントが記入されたプリント
を与え、個別指導を行う。
・課題Xが早く終えた生徒に
は先に課題Yを取り組ませる
・理解が遅れている生徒には
個の応じた目標に従い課題T
から順に再び着実に学習させ
無理に先の課題に取り組ませ
ない。


・課題意識を
持ち、自らの
課題に取り組
み、自分なり
の答えが導け
たか。














Y右の図において、辺BC上を点PがBを出発
してC、Dを通り、Aまで秒速2cmで進むも
のとする。点PがBを出発してx秒後の三角形
ABPの面積をycmとするとき、次の@〜
Bに答えなさい。
 @xの変域とyの変域とを示しなさい。
 Axとyとの関係を式で表しなさい。
 Bxとyとの関係をグラフで表しなさい。












6.課題Yの練習問題の答え合
 わせを行い、本時のまとめを
 行う。


5分


・複雑なものを単純なもの、
明確なものに置き換えて考え
るという関数の考えのよさに
気づかせる。
・関数の考え
を用いようと
する態度が育っ
たか。




 (4)評価
 変数に着目し、式や表を有機的に用いて、1次関数に対する理解を深め、1次関数を利用しようとする態度が育ったか。

 (5)座席表
           (略)

☆参考資料
      [ 学 習 態 度 の 調 査 結 果 ]


◎5月下旬、単元別テストの際に実施(対象者 中学2年生、***名)
        (上・中・下位群は成績順に3等分。数値は%。)
 質問@ あなたは単元別テストに向けて出題予告された問題を事前に
    学習しましたか。
      A…自信が着くまで学習した。
      B…大体、学習した。
      C…全く学習しなかった。

計算問題
 A
 B
 C





文 章 題
 A
 B
 C
上位群
16
41
43
上位群
14
48
38
中位群
11
62
27
中位群
 0
59
41
下位群
 0
41
51
下位群
 0
22
78
平 均
10
50
40
平 均
 5
43
52




 質問A あなたは計算問題・文章題が好きですか。
      A…好きである。
      B…どちらともいえない。
      C…嫌いである。

計算問題
 A
 B
 C





文 章 題
 A
 B
 C
上位群
49
35
16
上位群
11
35
54
中位群
51
35
14
中位群
 3
38
59
下位群
10
56
34
下位群
 6
12
82
平 均
37
42
21
平 均
 7
28
65



<参考文献>

文部省        大阪書籍 中学校指導書 数学編         平成元年7月 文部省        東京書籍 小学校算数指導資料「関数の考えの指導」 1973年 田中正吾・松浦宏[編] 国土社  文章題の完全習得学習と指導       1983年 片桐重男著      明治図書 数学的な考え方の具体化         1988年 片桐重男著      明治図書 問題解決過程と発問分析         1988年