平成9年度情報教育指導者講座 中学校・数学(神奈川県)

コンピュータを活用した事例(インターネットの利用)

群馬県小野上村立小野上中学校
教諭 上原 永護


1 はじめに

 インターネットは、急速に普及し、政治、経済、教育、個人生活等を巻き込んだ社会現象となってきている。学校教育に関しても、「 100校プロジェクト」などのいくつかの先進的な研究プロジェクトが全国的に展開され、多くの教育現場からその活用に関心が寄せられている。中教審においても、「学校においては情報ネットワーク環境を整備し、これらの積極的な活用を図ることによって、情報教育を推進するとともに、学校教育の質的な改善を図っていく必要がある」ことを指摘している。全国の学校をインターネットに接続する案も検討されるようになってきており、学校におけるインターネットの活用が急速に進展しようとしている。

2 インターネットの学校での一般的な教育利用法

 (1) 生徒の利用方法
 生徒の直接利用としては、インターネットで提供される教材を利用した学習や課題学習などにおける情報検索、学習結果の発信、電子メールを利用した学校間交流やアンケート調査などがある。
 (2) 教師の利用方法
 教材開発、授業設計、教育研究などに必要な情報を容易に入手することができる。インターネットでは、海外との情報交換が話題になるが、国内情報だけでも多くの情報が得られる。官公庁のホームページも頻繁に内容が更新されるようになり、最新情報が得やすくなってきている。研究機関の提供する資料や学会・大学などの学術情報も簡単に入手できる。また、個々の教師や学校の教育実践が発表されており、すぐに、授業に生かせるものもある。

3、本校の取り組み
 群馬県では、昨年度当初は、まだ、100校プロジェクトに参加している学校程度しか、インターネットに接続していなかったため、インターネットの導入方法、運用方法など、多くの初歩的な課題の検討から初め、インターネット利用を効果的に行うための導入上の留意点、インターネットのサービスの教育利用方法などを検討してきた。

(1)インターネットサービスの利用概要

ア、 インターネット接続
 インターネット利用目的、利用方法を明確にした計画を立案し、その利用に伴う経費の概算を算出し、予算を立てることにより、学校・教育委員会等への理解を求めた。また、その際、ホームページ開設を計画していたため、いくつかのページを事前に作成し、利用方法の説明に用いたり、契約とともに運用を開始できるように用意しておいた。先に述べた機器・ソフトウェアについては、下記の通りである。
 ○コンピュータ    PC9821Cr13(Pentium133&Windows95)Aptiva784(Pentium150&Windows95)
 ○電話回線      既存普通回線使用
 ○モデム       内蔵モデム等使用(28.8kbps&36.6kbps)
 ○ソフトウェア    インターネットエクスプローラー、ネットスケープナビゲータ
 ○アクセスポイント  市内(民間プロバイダー)
 ○利用料金      プロバイダー独自の教育支援プログラムのため無料
 ○サービス利用状況  WWW、ホームページ、電子メール、FTP

イ、 インターネットの教育利用実践
 本校の生徒用コンピュータは機種が古いため、事実上、WWW等を利用するために直接インターネットに接続することは不可能である。そのため、教師用のコンピュータへの接続を行うことになる。また、リアルタイムにネットサーフィンを行うために、コンピュータ教室への切り替えにより電話回線を1本引いてあるが、生徒一人一人が自由にインターネットに接続できない状況にある。
 そこで、以下の通り、インターネットを利用した。
 ○ ホームページ作成
 生徒の学習活動の発表と情報交換の場として利用したいと考え、作成においては、生徒の作品を多く取り入れた。また、生徒の作品をより多く取り入れることにより、生徒自らの情報発信になり、また、情報発信への学習意欲を高めることができると考えた。
 学校紹介においては、学校生活の様子を生徒が綴った文章やイラストを多用した。ホームページ作成においては、基本資料を生徒が作成し、それを教師がホームページに組み込むという手順で行った。村紹介では、村の企画観光課の資料提供などの協力を得て、生徒のワープロの練習を兼ね、生徒中心に作成を行っている。
 ○ 電子メール
 電子メールによる情報交換を行い、従来、狭い範囲に限られたコミュニケーションの概念を拡大することができるのではないかと考え、受信した本校のホームページに対する感想や本校へのメッセージを紹介し、ホームページ作成への意欲を高めたり、返信文を送信した。また、全国のホームページを公開している学校や教育利用に有用な資料を提供している個人などのホームページを生徒に紹介し、感想や質問の電子メールをワープロで作成し、送信した。
 ○ WWW利用
 WWWには、現在、膨大なホームページが存在し、それらの中から有用な資料を選び出すことが重要であり、まさに今、求められている情報活用能力が欠かせない。サーチエンジンを利用したり、より効果的な利用を行うために、授業で有効と思われるURL(ホームページなど、その情報のインターネット上における場所を示すアドレス)を収集、分類し、学校・生徒の実態や目的に応じた独自のリンク集を作成した。

(3)数学科でのインターネット利用

 数学科でのインターネットの利用は、学校での利用環境の整備がほぼ整った、昨年度後半から始めた。その概要は以下の通りである。

ア、数学教材等の収集
 ○問題等
 数学を題材とした問題をインターネット上に公開しているサイトがあり、その中に生徒が選択教科で取り組むのに適した問題も多くあるため、それらをリンク集に登録した。そして、生徒にネットサーフィンさせ、興味関心を持った問題をプリントアウトして、時間をかけて、問題に取り組んだ。
 サイトによっては、解答を送るとその解答順に解答者名簿に記載したり、採点してコメント等を送ってくれるものもある。また、送られた解答をホームページ上に紹介して、他の人の考え方を知ることができるようにしてあるものもある。
 本校の生徒は、授業時間内に結果が得られる比較的難易度が低いものに多く取り組み、特に「小中学生にも解ける! 大学入試問題」に多くの関心を示した。また、このホームページを管理している愛知県の藤井健二先生は、送った解答に対して、数日以内に採点結果などを返信していただいたため、生徒は、解答を送った後は、毎日、その返信を心待ちにしていた。このように、電子MAILにより、インターネットの特性である情報の双方向性が生かされ、コンピュータ利用の幅を拡げることができた。
 インターネット上で公開されている数学の問題数は決して多いとはいえないが、今後、様々な問題が公開されば、多様な生徒の興味関心、習熟度に対応することができるものと考える。
 しかし、今後、インターネットに接続し、それを利用する学校が増えていくと、送られてくる膨大な電子MAILに個人で対応するのは難しくなってくることも予想されるため、新たな方法も検討して行かなくてはならない。

<資料>「数学の問題がある主なホームページ」


小中学生にも解ける! 大学入試問題(愛知県立豊田工業高校 藤井健二先生)
http://www2.gol.com/users/nekopapa/sugaku/

Mysterious Math World!(和歌山大学教育学部附属中学校 角田佳隆先生)
http://www.center.wakayama-u.ac.jp/~sumita/math.html

Math−ROOM(和歌山大学教育学部附属中学校 角田佳隆先生) 
http://www.ajhs.wakayama-u.ac.jp/doc/ken/math/ji/math_ji.htm

MATH-CUT STUDIUM(岡山大学教育学部附属中学校 川上公一先生) 
http://150.46.175.4/kyouka/math/math.html

MATH GATE(佐賀県立唐津東高等学校 平田祐治先生) 
http://www.saga-ed.go.jp/materials/edq42761/index.htm

MatheMagics(宮崎県椎葉村立椎葉中学校 宇治野忠博先生)    
http://www.mnet.or.jp/~ujino/

やってみmath?(愛知県豊橋市立前芝中学校 平野光也先生) 
http://www2b.meshnet.or.jp/~hirano/math0.html

数学の部屋 (石川県金沢市立高岡中学校 青木芳文先生)
http://www.nsknet.or.jp/~y_aoki/

数学の問題箱 (愛知県岡崎市立美川中学校 伊藤研治先生)   
http://www.sun-inet.or.jp/~itoken/problem.html

数学のある風景 (熊本県熊本市花陵中学校 大橋英材先生)  
http://www.alphatec.or.jp/~oohashi/seitomon.htm

数学なんだ−ランド (和歌山大学教育学部(4回生) 野間宏久氏)
http://www.center.wakayama-u.ac.jp/~l46a412/suugaku/suugaku.html

Point of view(和歌山大学教育学部(4回生) 黒崎育男氏)    
http://www.center.wakayama-u.ac.jp/~l46a412/suugaku/suugaku.html


 ○ソフトウェア
 コンピュータ利用において、多くの学校で抱えている課題のひとつにソフトウェアの購入がある。良質で低価格のものが望まれるが、生徒のコンピュータの台数分だけソフトウェアを揃えるのには、地方交付税などの予算措置があるとはいえ、難しいものがある。
 本校では、DOSベースの旧式のコンピュータを使用しており、CAIコースウェア、図形ツールは、生徒数、揃えてある。また、提示用ソフトウェアは、Windows版のものが低価格で多くの内容を持つものが販売されるようになったため、いくつか教師用に購入してある。
 しかし、ドリルソフトなどは、安藤忠展先生の作成したフリーソフトウェアなどを使用していた。そして、これらもインターネット上で公開されたため、最新版が簡単に入手できるようになった。また、数学のコンピュータ利用において先進的な取り組みをしてきた方々が、これまで蓄えてきたDOS版のソフトを公開したり、教育センターで蓄積してきた研究成果を一般に公開したりしたため、ソフトウェアの利用環境が充実してきた。
 また、今後、多くの学校で導入されていくものと予想されるWindows上で動作するソフトウェアも年々開発され。JAVAやVisualBasicなどで作成されたものも数多く、公開されている。

<資料>「数学のソフトウェアがある主なホームページ」


数学の部屋(JAVA)(石川県金沢市立高岡中学校 青木芳文先生)    
http://www.nsknet.or.jp/~y_aoki/index.htm

PC98(DOS)ソフトウェアー一覧(石川県金沢市立高岡中学校 青木芳文先生)  
http://www.nsknet.or.jp/~y_aoki/98itiran.htm

数学教育におけるコンピュータの利用(岐阜県関市立旭ヶ丘中学校 安藤忠展先生) 
http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/~ando/index.html

BASICソフトで数学の授業を面白く!(熊本県熊本市花陵中学校 大橋英材先生)  
http://www.alphatec.or.jp/~oohashi/basic.htm

Welcome To Eureka Project(栃木県佐野市立城東中学校 松島先生) 
http://www.sunfield.or.jp/~matusima/

山梨県の総合教育センター       http://www.ypec.misaka.yamanashi.jp/
岐阜大学教育学部附属中学校     http://www.fuzoku.gifu-u.ac.jp/chu/math/math.htm
Forum of Geometric Constructor(愛知教育大学 数学教室 飯島康之助教授)
                        http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/teacher/iijima/



 ○学習指導案
 指導案を公開しているサイトはは、まだ少ない。MATH-CUT STUDIUM(川上公一先生)などには、多量の授業実践の成果が紹介されているが、授業の展開方法やソフトウェアの利用方法などは、授業に即生かすことができるため、より多くの公開が望まれる。また、公開されているものの多くは、授業の展開について記述したものが多い。

<資料>「数学の学習指導案がある主なホームページ」


MATH-CUT STUDIUM(岡山大学教育学部附属中学校 川上公一先生) 
http://150.46.175.4/kyouka/math/math.html

和歌山大学教育学部附属中学校     http://www.ajhs.wakayama-u.ac.jp/doc/ken/data.htm
課題学習「折り鶴」(熊本県長陽村立長陽中学校 堀尾直史先生)  
http://aso.jhs.choyo.kumamoto.jp/jhs/shidouan/crane.html

大阪教育大学「世界の指導案」
http://jc.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/easyBBSDX/bbs.acgi?r=room_4&BBS_MSG_970624102513.html



イ、交流
 電子MAIL交換を発展させた生徒同士の意見交換・交流、教師同士の算数・数学でのインターネットやパソコンの利用を中心とした情報交換をML(メーリングリスト)を利用して行っている。
 本校の生徒が多く利用している「小中学生にも解ける! 大学入試問題」を運営している藤井健二先生を中心に活動している「nekopapa-kids」では、インターネット上で算数・数学のページを作成されている先生方とインターネット上の算数・数学の問題に挑戦している小中学校の先生方が参加しており、全国の生徒から寄せられる解答やそれに対するコメント等を紹介することによって、どのようにそれぞれの先生方が実践しているかをリアルタイムで知ることができる。また、「夏休みの課題」という企画を設け、全国の先生方から出題していただき、互いの学校の生徒や全国の小・中学生が解き合うという活動も行っている。

<資料>「数学の主なメーリングリスト」


mathedu(山梨大学 成田雅博 助教授)  http://www.cer.yamanashi.ac.jp/mathedu/ml/mlann.html
nekopapa-kids(愛知県立豊田工業高校  藤井健二先生)  http://www2.gol.com/users/nekopapa/nekokids/


ウ、ホームページ作成による情報発信
 数学教育の研究においては、教師自ら研究グループを作成して、アイデアや情報などの交換をしたり、互いの実践等に対する意見交換や共同研究が行われる。しかし、その活動には、地理的・時間的な制約があり、たとえ、月に一度の研究会であってもその運営には多くの困難がある。
 インターネットの「インターラクティブ=双方向性」という特徴と電子MAILの送受信における時間の即時性・任意性という特徴により、これらの問題の多くが解決される。
 情報交換は主に、電子MAILによって行われるが、自分の授業のためや後に同様の授業をして意見を述べたり、意見を求めるるためなどに、その実践の内容を参考にするために随時、必要に応じて引き出したりするためには、ホームページの作成は欠かせない。
 また、情報収集においては、数学教育関係の雑誌等で情報を得ることも、原稿執筆や編集期間の問題もあり、早くても1・2ヶ月前の情報であったり、時には、1年前の情報であったりする。インターネットの世界では、3ヶ月、一昔といわれるように情報の新鮮さが、特徴であり、前の週に行われた研修会の資料が得られたり、多くの先進的な情報が早期に入手することができる。しかし、これらも通常のメディアでは、一方的に得られだけであり、その実践に対する質問や意見交換をすることは容易ではない。

 このようなインターネットを活用した教育環境は、大変、有意義なものであるが、自作ソフトウェアや指導案な多くの優れた実践があるにもかかわらず、公開されていないものが多い。論文の盗用などが問題になることもあるが、インターネット上に公開されることにより、一般に周知され、それと同時にその著作権が多くの人々に認められることになると考えることもできる。また、多くの情報を得るためには、自ら情報を発信することは重要であると考え、自らの実践を公開することとした。
 ホームページ作成においては、自らの教育実践の多くを紹介するため、自分のインターネット利用の中心教科である数学と特別活動での活動を中心に作成を進めている。ここでは、それらのうち、数学について、述べる。


 ○「算数・数学 MOW?MOW?MOW?」

 選択数学で扱うことを想定した問題を集めたページである。1からnまでの整数の和やマッチ棒の問題など、オーソドックスな問題から、日常生活や授業で扱った問題の発展などの問題を公開している。問題タイプ11、問題数28の問題を作成し、今後も作成する予定である(平成9年9月中旬)。
 また、問題Fは、「小中学生にも解ける! 大学入試問題(藤井健二先生)」の「夏休みの課題」の企画に参加し、「問題7」としてリンクしている。
 解答として寄せられたMAILに対し、採点結果にコメントを添付して返信した。まだ、インターネットの利用が始まったばかりであり、ホームページの公開して間もないため、寄せられる解答も少ない。しかし、他の先生方の数学の問題を扱ったホームページは、そのページを利用している学校で採点等の処理をしてところが多いため、今後、インターネット利用が一般化し、電子MAILの利用も活発になってくると、その処理が大きな負担になることが予想される。また、解答を見ることができる場合、生徒は、十分に考える前に、解答を見てしまうことも少なくない。そこで、ヒントを用意しているサイトもある。
 このような現状と課題があるため、問題をタイプ別に分類して、帰納的に問題の傾向をとらえたりできるようにしたりして、順に問題を解き、最後に電子MAILを受け付ける形式をとり、ある程度絞り込みが行えるようにした。また、最後まで解けた者だけが、解答を見ることが出来るようにリンクを設定してある。また、問題の内容をイメージしやすくなるように、アニメーションを用いた。
 まだ、実験段階であるが、採点には、JavaScriptを使用した。一定の表現方法で表し、正解の式や値を照合したり、メニューから適したものを選び、その選択内容に対するアドバイスなどが表示されるようにしてある。


○MOWの実践記録

 雑誌等に掲載された原稿や研究会等で発表した資料、指導案などを公開している。研究会等での発表内容や論文などを進んで公開している方もいるが、それに倣い、また、このような公開が一般化されることを期待して、公開した。導案は、個人情報にふれる部分は削除し、出来る限りの公開を行っている。まだ、そのような形の指導案の公開は少ないが、個人だけでなく、教育センター等で限られた範囲のネットワークで公開されていたものが、インターネット上で公開されつつある。その際に、細案形式での公開が行われることを期待して、細案の公開を行った。


○MOWの自作ソフトウェア

 これまでいくつかのソフトウェアを開発してきたが、最近のものを公開した。(財)学習情報研究センターのソフトウェアコンテストの入賞作品は、本校で使用しているFM-TOWNS用のソフトウェアである。まだ、Windows環境がない学校も多いと思われるため、利用価値があると考え、公開した。また、立体切断シミュレーションのWindows版として「CUBE CUT」を作成したが、これは、平成9年度全国算数・数学教育研究大会の発表に向けて作成したものである。


4.おわりに

 社会インフラとして大きな拡がりを見せているインターネットは、新しい教育・学習の環境として大きな可能性を秘めており、インターネットを「離れた場所にある教室同士を結んで共同学習を行なう環境」「教師・研究者等同士を結んで共同研究を行なう環境」等として、様々な試みや提案が行われている。その取り組みの過程でそのノウハウを獲得したり、新たな課題や可能性を発見することもできるものと考える。
 インターネットでは、ソフトウェアのβ版でしか見ることのできないページというのが増えているようにβ版は安定性がなくても覚悟の上で使用していかなくてはならないのが現実である。教育ではとかく確立したものを導入しようとする傾向がある。しかし、インターネットという先端の技術を教育に導入しようとする場合は、ソフトウェアのβ版のように、不安定な部分もあるが、積極的な取り組みが重要であると考え、電子MAIL等で多くの方々からご指導・ご助言をいただきながら、実践を重ね、さらに多くの情報を発信していきたい。