数学科学習指導案

授業者 上原 永護
対 象 3年○組○名
於 ユンピュータ教室


授 業 の 視 点


 標本の割合と母集団の割合の関係から、実際には測定が困難な母集団の全体の数量を
求められるという標本調査のよさに気づかせ、より深い、実感を伴った統計的な見方や考え
方を育てるのに、シミュレーションによる実験は有効であったか。




1.題材名 「標本調査(3年)」

2.考 察

(1)はじめに

       (略)

(2)本題材の内容
 本題材では、母集団の平均値を標本平均から推定する方法と母集団全体の数量を標本での比率から推定する方法を学習する。
小学校の第6学年において「一部の資料から求められる割合などによって全体についての傾向の分かることがあることを知ること」が扱われ、中学校の第2学年では、資料を収集、整理して平均値や範囲などから資料の傾向をとらえることを学習しているので、実験や観測を通して得られた資料から母集団と標本の関係を考察する場合、この学習が活用できるであろうと考える。
 また、第3学年では相対度数の安定した値としての確率を学んでいる。 1つの母集団から大きさnの無作為標本を抽出するとき、その平均値は1回ごとに異なる。しかし、無作為抽出を多数回繰り返して、その標本平均値の平均を調べてみるとしだいに安定する傾向があり、ほぼ正確に母集団の平均値を推定することができることをこれまでに学習している。多数回の実験の結果として得られる標本平均の平均値の安定性を利用した方法を、標本平均の求め方として学ばせるが、1回の抽出で得られる標本平均のもつ意味にも気づかせ、日常生活において行われるアンケート等にも十分な意味があることを理解させる。
 また、標本を抽出するごとに、その平均を求め、それを数回行った結果の平均値を求めることによって、母集団の平均値を推定することと、標本の数を多くして、平均値を求あることとの意味の違いについては、簡単な例示をして、生徒に気づかせる程度にとどめる。
 このように、本題材は、中学校における確率・統計の学習におけるまとめに位置し、その内容は総合的なものであるため、重要なものであるといえる。

(3)生徒の実態

○学習への取り組み状況

 指名されなくても返答したり、黒板で説明しようとする生徒が多い。一人―人が積極的に発言したり、行動したりして学習に取り組もうとする生徒かほとんどである。難易度の高い課題に対して、興味をもって粘り強く取り組もうとする生徒は少ないが、難易度を多少下げれば、考えようとする生徒は多い。
計算練習など技能の習熟のための学習には、発展的に問題集などを使ってを積極的に取り組むが、文章題や図形などの証明問題には意欲的に取り組むものの授業やテストに扱った問題しか学習しない生徒は多い。 しかし、再テストや単元末テストではできるようになっても、1年間の復習や3年間の復習という形で出題するとできなくなってしまう生徒が多い。
 多少、抽象的・論理的な思考を要求する場面になると、自ら考えようとする意欲がほとんどの生徒にみられなくなり、学習の主体性が失われがちであり、多くの生徒が、「誰かが考えてくれるだろう。」「先生が教えてくれるだろう。」などと考え、没個性化に陥りがちである。

○学力の実態
            (略)
○興味・関心

 数学科においても現3年生は、これまで技術科等で使用してきているが、コンピュータに対する興味や関心は高く、授業後の感想をみでみると、「授業にもっとゴンピュータを取り入れてほしい」と多数の生徒が望んでいる。
また、コンピュータ使用に対しては、初めて触れたときには、かなりの抵抗感を持っていたが、数学や技術科の授業などで使用する機会が多くなるにつれ、抵抗感はなくなってきている。
 選択数学科を4教科から、選んだ生徒が3年の半数いるが、その多くの理由は、数学の学力向上とコンピュータを活用した数学の学習への興味関心である。

〇数学的な考え方

 小学校からの学習において、これまで用いられてきた数学的な考え方(抽象化、単純化、記号化、数量化、図形化、特殊化、類推的、帰納的、演鐸的、一般化、統合的、発展的等)については、意識して用いることは行ってきていないが、潜在的に身につけてきている。 しかし、積極的にその考え方を用いることのできる生徒は少ない。
 また、数学的な考え方(アイデア) (単位の考え、表現の考え、操作の考え、アルゴリズムの考え、概括的把握の考え、基本性質の考え、関数の考え、式についての考え等)は、「数学のよさ」を感得させるのに欠かせないものであるが、意識的、積極的にこれらの数学的なアイデアを用いることのできる生徒は少ない。
 しかし、数学的「よさ」に着目した授業展開を行ってきたため、期末テストや校内実力テストなどで、数学的「よさ」に関する記述式の問題に対する記述内容も向上してきている。多くのよさに気づくことのできる生徒は1/4程度だが、ほとんどの生徒が何らかの数学的「よさ」に気づくようになった。

○レディネス

 10月に実施した実態調査によると、ほとんどの生徒が平均の算出や平均と合計の関係は把握している。また、階級値や相対度数に関しては、十分理解していない生徒もおり、階級値を利用しての平均の算出方法については、ほとんどの生徒が忘れていた。仮平均を利用して計算した生徒もいなかった。そのため、実態調査後、その方法を知らせたところ、多くの生徒か計算できるようになった。
 相対度数と試行回数との関連はある程度理解しているが、試行回数を多くすると相対度数が―定の値に近づいていくことまでは、ほとんどの生徒が理解していない。実態調査の時点では、標本についての学習は、まだ、行っていないため、ほとんどの生徒が標本の意味を理解していない。標本を用いた調査方法は社会科で国勢調査の学習を行っていた
か、実際場面へ、その考えを用いることのできた生徒は1名であった。
 標本調査を行う際に、母集団の大きさが大きい方がよいことを、ほとんどの生徒が気づいていた。また、抽出する標本の質が重要であることを理解している生徒は半数であった。全体の数量を推定する問題においては、一部の割合から全体を推定する方法のあげることのできた生徒は半数であったか、取り出した標本をもどしてから、再び調査し、その割合から全体の数量を推定する方法をあげることのできた生徒はl名であった。
 「教科書に記述された事象が本当に正しいか」どうか判断する理由として、 「教科書にかいてあるから」と半数近くの生徒か答え、また、残りの多くは「なんとなく」等と答えた。また、それを検証するために、実験の必要性を半数の生徒が指摘することかできた。


3.支援方針及び留意事項

○確率・統計は、生徒にとって、日常生活に結び付いたものを取り上げることによって、身近な出来事が簡単な数量によって表すことができるため、多くの生徒が興味・関心を持つことができる。
○標本調査の概念の基礎理解を終えた後に、その有用性を問うことによって、生徒が立ち止まって考えなくてはならない状況を設定し、自ら思考し、実験により検証することにより、その有用性を判断できるようにする。
○標本から、全体の数量を推定する実験は、母集団にある程度の大きさが要求されるため、実際に行うのは困難である。そのため、授業では、実際には、実験が行われないことが多い。そのため、生徒は「教科書に書いてあるから」 「先生が言うから」とそのまま飲み込みがちであり、また、教師も数学的に検証された有効であるとされているからと考え、実際に、自分で実験せずに指導にあたることも少なくない。また、その有効性も、教師、生徒共に実感していないことが多い。
 また、手数のかかる作業を嫌う傾向があるため、視覚的に表したり、計算や表などのよさに気づかせたり、作業の効率化を図る必要がある。
 そこで、コンピュータを用いることにより、学習意欲を喚起し、生徒―人―人が積極的に行動し、興味をもって粘り強く数学の学習に取り組んでいく態度の伸長を図りたいと考えた。
○新しい教育機器であるコンピュータのすぐれた計算機能、図形表示機能等をはじめ様々な機能を生かすことにより、一層効果的な指導が期待できる。今まで以上に帰納的に数学を構築していく場面や、概念などを実験的に把握する場面を多く持つことができ、思考のための道具として使うことにより数学的事実の観察や数学の構成過程を感得させるのに有効な手立てとなる。
 また、単に生徒の興味・関心をひくだけでなく、原理や法則等を実感を伴った理解にまで高め、学習することの楽しさや素晴らしさが体験できるようにするのにも有効である。
 そこで、数学的な見方・考え方のよさに気づいたり、それを深めることができるように、様々な数学的な見方や考え方に関する要素をソフトウエアに持たせるようにした。
 コンピュータには、利点もあるが、十分な配慮を行わないと、十分な学習効果が上げられないため、次のような点に留意して指導を行う。

・模擬実験に取り上げる事象は、生徒の生活に身近なものを取り上げ、関心を持たせる。
・模擬実験を通して扱うように配慮し、標本平均が実際に意味を持つことを理解させる。
・コンピュータで、生徒―人―人に模擬実験を行わせることにより、学習を主体的に行わせる。
・必要に応じて電卓を使用したり、 さらには、 コンピュータ等を用いて母集団と標本の関係を比毅検討できるようにしたりすることにより、学習の効率を高めるよう配慮する。
・コンピュータの操作の理解で終わることのないように、基本的な計算方法を学習した後に、コンピュータを使用させることによって、理解を図る。
・コンピュータ使用においては、その計算機能を有効に使えるようなソフトウエアーを作成するが、 自分で実験を行える部分とコンピュータのもつシミュレーション能カによって、短時間で数多くの実験が行える部分で構成する。
・実験結果を視覚的に理解しやくするため、自動的にグラフ化する機能を付加する。

○標本調査という見方・考え方の価値を振り返る場面を設定することにより、統計的な見方・考え方を伸ばしたり、問題の解決方法や結果に対して、常にその妥当性を検証し、思考論理を評価していくことの大切さに気づかせるなど、事象を数学的にとらえようとする意識を育てる。
○コンピュータ教室は、多くの機器が設置され、教室が広いため、後ろの生徒は、板書がよく見えないなどの問題点がある。そこで、本時は、生徒を教室の前の方に集中して座らせるようにする。

4.研究テーマとのかかわり

 本題材における数学的な「よさ」とは次のようなものがあると考える。
1 標本の割合と母集団の割合の関係から、実際には測定が困難な母集団の全体の数量を求められる
2 ―部を調べることにより、全体を推定できるため、省力化が図れる。
3 数量化することにより、処理が容易になり、かつ正確になる。
4 比を用いることにより、簡単な計算で求められる。
5 平均値を用いること。こより、精度の高い推定値が得られる。
6 比と平均値を組み合わせた推定方法をパターン化することにより、日常生活における様々な場合を形式的に扱うことができる。
 これらの学習指導については、生徒がその「よさJを感得するようにして、意欲をもって学習に取り組み、学んだことを進んで学習や生活の場に活用していけるように配慮して進めることが大切である。
 また、「数学的な見方や考え方」を身につける学習を行うには、事象を数学的にとらえて、式・表・グラフ・図・モデルなどに表現したりして、その事象を多角的に、そして、深く考察することが大切である。

 そこで、本題材では、日常生活における具体的な場面を取り上げることによって、学んだことを学習や生活の場に活用していけるという有用性に気づいたり、コンピュータによる支援による効果的な実験を行い、その結果に基づいて考察したりすることによって、より深い、実感を伴った統計的な見方や考え方が身につくように、学習指導を進めていくことによって、数学的な見方や考え方の育成が図れるかを実践を通して明らかにしたい。


5.本題材の目標


標本調査の概念を理解し、標本から母集団の性質を推定する方法を知る。
関心・意欲・態度
思 考 ・ 判 断
技能 ・ 表現
知識 ・ 理解
 標本調査に関心をも
ち、統計的な見方で事象
を判断しようとする態度
を伸ばす。




 無作為に標本を抽出し、全体
の平均値や数量を推定する方法
を理解する。
 実験を多数行うと標本の平均
値や全体の数量の推定値が次第
に安定してくることの意味を理
解させ、標本調査の有用性に気
づく。
 無作為に標本を抽出
し、標本平均を求め、母
集団の平均値を推定する
方法や標本での比率か
ら、集団全体の数量を推
定する方法を身につけ
る。

 標本調査の概念とそ
の用い方として標本平
均の算出方法と標本で
の比率から母集団全体
の数量を推定する方法
を理解する。



6.評価規準


関心・意欲・態度
思 考 ・ 判 断
技能 ・ 表現
知識 ・ 理解
標本調査に関心をも
ち、統計的な見方で事象
を判断しようとする。

 取り出した標本の特性を特
徴を生かした標本調査の方法
を理解し、標本調査のよさに
気づく。
無作為に標本を抽出
し、標本から母集団の
平均値や全体の数量を
推定する。
 標本調査の概念と
その用い方を理解す
る。


8.本時の学習

(1)ねらい
標本調査の概念を理解し、標本の割合から母集団の数量を推定する方法を知る。
関心・意欲・態度
数学的な考え方
数学的な表現・処理
知識・理解
 標本調査に関心をも
ち、進んで模擬実験に取
り組み、統計的な見方で
事象を判断しようとする
態度を伸ばす。

 無作為抽出により全体
の数量を予想する考えを
理解する。実験を多数回
行うと予想値が次第に安
定する意味を理解し標本
調査の有用性に気づく。
 無作為に標本を抽出
し、標本の数量を求め、
母集団の全体の数量を推
定する方法を身につけ
る。

標本調査の概念とその
用い方として標本から
全体の数麓を算出する
方法を理解する。



(2)準備 OS「TOWNS―OS(富±通)」、ソフトウエア「標本調査(自作)」
(3)展開
指導のねらい
学 習 活 動
時間
学習活動への支援
具体的評価項目
 母集団全体の数量
を、標本を使って推
定する方法を理解す
る。






 標本から母集団全体の
数量を推定する方法を復
習をする。









10







 前時の学習内容を想起しやす
いように流れ図を掲示するとと
もにコンピュータでの実験手順
を明確にする。
 前時では行わなかった実験を
コンピュータのシミュレーショ
ンで行いながら、標本から全体
の数量を推定する方法を説明
し、ソフトウエアの使い方を知
らせる。
 標本から母集団全
体の数量を求めよう
とする。
 数量関係に気づ
き、比を使って表
す。




 標本からの推定の
有効性と有用性に気
づく。









 同じ母集団から標本を
取り出し、母集団全体の
数量を推定する。






10


 コンピュータにより抽出した
標本から自分で計算して、全体
の数量を推定し、実際の数値と
比較させる。
 交替でさせ、生徒―人ひとり
に実験をさせる。
 l回の実験だけでは
偏りのあることに気
づく。



 同じ母集団から複数
回、標本を取り出し、母
集団全体の数量を推定す
る。





20


コンピュータのグラフ機能を用
いて、視覚的に実際の全体の数
量や標本からの推定値の平均と
の関係を表す。
 生徒―人―人にいろいろな場
面の実験を数多く行わせる。
 標本からの推定値
の平均から推定する
必要性に気づく。



 標本から母集集団
全体の数量を推定す
る方法への理解を深
める。



 学習経過をもとに標本
から母集団全体の数量を
推定する方法を確認す
る。






10



流れ図を用いて、学習経過と実
験結果をもとに標本から母集団
全体の数量を推定する方法を明
確にする。
 実験を終えての感想などをま
とめさせ、標本調査を有効性と
有用性への自覚を高める。
 標本平均の考え を
用いて、母集団全体
の数量を推定するこ
とができる。



(4)評価
○標本の一部から母集団全体の数量を推定する方法の有効性・有用性に気づいたか。
○標本の一部から母集団全体の数量を推定する方法が身についたか。
関心・意欲・態度
数学的な考え方
数学的な表現・処理
知識・理解
 進んで実験を行おうと
したか。
 実験結果の統計的意味
に興味をもったか。




 無作為抽出の回数と母
集団全体の数量の推定値
との関係に気づいたか。
 標本調査のよさに気づ
いたか。



 標本の一部から母団
全体の数量を推定する
ことができたか。
 コンピュータの機能
を生かして、標本調査
が行えたか。


 標本の一部から母集団
全体の数量を推定する方
法における標本調査の概
念が用いられていること
に気づいたか。
 母集団の全体の推定す
る方法を理解したか。




<参考文献>

文部省  大阪書籍  中学校指導書 数学編              平成元年7月 文部省  大日本図書 中学校数学指導資料 学習指導と評価の改善と工夫 平成5年6月 文部省  大日本図書 小学校算数指導資料 新しい学力観に立つ算数科の学習指導の創造
 平成5年9月
文部省  東京書籍 小学校算数指導資料「関数の考えの指導」       1973年 文部省  ぎょうせい 情報教育に関する手引き             平成2年7月 田中正吾・松浦宏[編] 国土社  文章題の完全習得学習と指導       1983年 片桐重男著      明治図書 数学的な考え方の具体化         1988年 片桐重男著      明治図書 問題解決過程と発問分析         1988年