中学校数学3年

統計的な見方・考え方を育てる授業
〜コンピュータシミュレーションを利用して〜


1.はじめに
 数学の学習において、実験や操作的な活動の重要性が認識されていても、統計の学習では、時間的な制約や労力の問題から、わずかの実験を行うだけで、「教科書に書いてあるから」「先生が言うから」と生徒がそのまま受け入れてしまい、十分な検討が行われないことが多い。
 また、数学的に問題を解決していく場合、その過程や結果を何らかの形で表現する必要がある。その際に、文字を利用して式で表現したり、表で表したり、図やグラフを用いて考えたりといった表現の工夫をすることによって理解や処理が容易になることがある。このような様々な表現手段を活用することによって、数学的な見方や考え方のよさを知ることができる。
 そこで、コンピュータの持つすぐれた計算機能、図形表示機能等をはじめ様々な機能を生かすことにより、統計的な見方・考え方を深めることができると考えた。
 しかし、単にコンピュータの新奇性などで生徒の興味・関心をひくだけでなく、原理や法則等を実感を伴った理解にまで高め、学習することの楽しさや素晴らしさが体験できるようにする必要がある。
 そこで、十分な学習効果が上げられるように、次のような点に留意して指導を行った。
・シミュレーションには、生徒の生活に身近な ものを取り上げ、関心を持たせる。
・シミュレーションにより、標本平均が実際に 意味を持つことを理解させる。
・学習に主体性を持たせるために、生徒一人一人にシミュレーションを行わせる。
・コンピュータにより学習の効率を高める。
・コンピュータの操作の理解で終わることのないように、基礎基本を学習した後に、コンピュータを使用させる。
・コンピュータによるシミュレーションが、ブラックボックス化しないように、視覚的に模擬実験の進行状況が把握できるようにする。
・実験結果を視覚的に理解しやくするため、自動的にグラフ化する機能を付加する。

2.実践例
○題材名 標本調査
○指導にあたって
 電卓を使い、効率化を図っても、標本抽出とその平均値の算出、母集団の平均値の算出を行うには、多くの時間を要するため、1時間の授業を全部実験に費やしても、数回しかできない。
 そこで、前時に、標本を取り出して平均値を求める実験を行い、標本平均の求め方の基本を身につけ、本時に、シミュレーションを用いて多くの実験を行い、標本平均の特徴を調べる。
 また、誤差に着目させ、生徒が立ち止まって考えなくてはならない状況を設定し、単に「教科書にあるから」正しいというのでなく、自ら思考し、実験により検証することにより、その有用性が判断できるようにする。
 このように、標本調査という見方・考え方の価値を振り返る場面を設定することにより、統計的な見方・考え方を伸ばしたり、問題の解決方法や結果に対して、常にその妥当性を検証し、思考論理を評価していくことの大切さに気づかせるなど、事象を数学的にとらえようとする意識を育てる。

 指導計画(3時間)

学   習   活   動

 集団のもっている性質を調べるのに、全数調査と標本調査があることを知り、標本を無作為に取り出すことの意味とその方法を知る。
 母集団の平均値を、標本平均から推定する方法を知り、電卓を使い、実際に推定し、母集団の平均値との比較を行う。

 何回かの標本平均の平均値は、母集団の平均値にほぼ等しいことや標本を取り出す回数が増すほど標本平均の平均値は母集団の平均値に近づいていくことをシミュレーションにより確かめる。
 標本から母集団全体の数量を推定する方法を考察する。

 何回かの標本による母集団全体の推定値は、母集団の実際の数量にほぼ等しいことや標本を取り出す回数が増すほど標本による母集団全体の推定値は母集団の実際の数量に近づいていくことをシミュレーションにより確かめる。


○展開例(第2時)
学 習 活 動
学習活動への支援
 標本平均から母集団の平均値をより正確に推定する方法を考える。(10分)
 標本によって標本平均にばらつき(誤差)があることにコンピュータのグラフ機能で気づかせる。
 任意にデータを選択したり、ランダム機能を使い、実験を行い、方法の有効性を確かめる。(20分)
 2通りのグラフ表示の意味を確認し、ソフトウェアの使い方を十分理解させ、実験を通して、標本平均の有用性を実感を持ったものに高める。
 学習経過をもとに標本平均から母集団の平均を求める方法を確認し、練習問題を解く。(10分)
 流れ図を用いて、学習経過と実験結果をもとに標本平均から母集団の平均を推定する方法を明確にする。
 標本から母集団全体の数量を推定する方法を考察する。(10分)
 実数を調査するのが困難な場合を扱い、標本調査の必要感を持たせる。


3.おわりに
 自動的に計算される標本平均とそのいくつかの平均をグラフ表示することにより、視覚的に実験結果を捕らえたり、自分の考えたことを短時間で何度も検証するなど、思考活動に十分な時間をかけることができた。
 意欲的な学習態度、標本平均の考え方の習得、標本平均に対する理解に成果があったとする感想やコンピュータの学習支援機器としての素晴らしさに対する評価も多くの生徒から得た。

          群馬県小野上村立小野上中学校 教諭 上原 永護